「 教育基本法の改正論議で原点を忘れた公明党の主張は対中国政府にこそ展開せよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年6月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 594
生まれてくる子どもたちの頭脳には、計り知れない才能と可能性が詰まっている。そしてその脳は、親や周囲の人間が子どもに働きかけ、愛情を注ぎ、教えていくことに反応しながら育っていく。教育がどれほど重要かということだ。
中国政府が反日教育にまい進してきた結果は、一連の反日デモとなって鋭く日本に突きつけられた。中国政府の反日教育の実態は、これまでは主として教科書を中心に論じられてきたが、より重要なのは、じつは教師に対する指導本である。教師はどのような心構えで、何をどのような手法で教えるべきかを具体的に記したものだ。ある事実を伝えるとき、言葉づかいや声の調子、感情移入によって、情報を受ける側の印象は天と地ほどに異なる。反日の価値観を子どもの心にしっかりと植えつける教え方を教師に徹底するのが、この指導本の目的である。
同書について、日本ではこれまで断片的に報じられてきたが、民主党衆議院議員の松原仁氏がその原本を入手し、全訳した。読めば、いまさらではあるが、驚くばかりである。たとえば「南京大虐殺」の教え方について、「教師指導本」には次のように記述されている。
「この項では、鮮血したたる事実をもって、日本帝国主義が行った中国侵略戦争の残虐性と野蛮性を曝露している。教師は教室において、日本軍の南京における暴行を記した本文を真剣に熟読させて、生徒をして、日本帝国主義に対する深い恨みを植えつけるようにしなければならない」
原文は深い恨みを「牢記」させよと書かれている、と指摘したうえで松原議員は語る。
「牢記というのはなにがあってもその記憶が消えていかないように心に刻み込めという意味でしょう。日本憎しの感情を深く骨身に刻み込ませるように指導せよと言っているのです」
「満州事変」についても「教師指導本」は、「愛国主義教育を行う上で最も良い題材」とし、ビデオなどで「直観に訴える教育」を強化せよとしている。加えて、「思想教育が予期された目的を達成するために、授業に臨むときには教師自身が日本帝国主義を心より恨み」「憂国憂民の感情を心に持って指導せよ」、授業では「松花江のほとりの歌」を「沈痛な思いをこめて」歌い「教室の雰囲気に気を配り」「思想教育の実質的効果」を上げよと、まるで反日で洗脳せよと言わんばかりだ。
文字どおり、反日の思想と感情で子どもたちの頭と心を染め上げよ、と言っているのだ。このような教育が、中国では1990年代初めから国策として展開されてきた。まさに、中国国民の反日感情は中国政府の政策によって増幅されてきたのだ。
対照的に、日本では「愛国教育」はその一片さえ存在しなかった。「愛国」の言葉さえ、公明党が嫌うため、自民党は使えないでいる。
そして今、公明党は教育基本法の改正論議で「児童の居住国及び出身国の国民的価値観の尊重」を盛り込むよう主張している。日本に住む外国人児童の国々の価値観をも大切にせよと教育基本法に書き込め、というのだ。外国人に参政権を与えよという主張とともに、この公明党の主張に、私は断固反対である。教育基本法は、一にも二にもよき日本人を育てるための教えである。よき日本人という価値観は、当然のこととして他国の人びとへの敬いの心も含む。なによりも、日本人としての魂を奪われたかのような戦後教育を正す試みの一つが、教育基本法改正である。その原点を忘れて、これ以上、日本というアイデンティティから遊離した教育方針に傾くことには、強く反対する。中国と親しいパイプを持つ公明党であれば、先の主張は中国政府に対してこそ展開してほしいものだ。